体験記 No. 02

炎上PJ、最初の七日間

案件物流・基幹システム刷新
フェーズ炎上
語り手匿名 / 3年目
読了約3分 · 1,600字
案件の時間軸
アサイン
立ち上がり
仮説
中間報告
炎上
最終報告
試作 · 検閲前

遅延4ヶ月、課題管理表は4つ、議事録はない。追加投入されたPMOの、最初の七日間の記録。

金曜の17時20分に電話が鳴って、月曜の朝には知らない街にいた。アサインとはそういうものだと聞いてはいたが、実際にやられると、スーツケースに何を入れたか自分でも思い出せない。

案件は、中堅の物流会社の基幹システム刷新。稼働予定からすでに4ヶ月遅延していて、開発ベンダーとクライアントの情報システム部が、お互いを主語にした説明を3ヶ月続けている状態だった。僕の役目は追加投入のPMO。要するに火消しの下働きだ。

1日目(月曜)

朝9時、通された会議室のホワイトボードに、消し忘れの字で「課題159件」と書いてあった。いつの数字ですかと聞いたら、誰も知らなかった。

この日は挨拶だけで終わった。名刺を14枚配って、うち3人に「で、御社は何をしてくれるんですか」という顔をされた。ホテルに戻って、コンビニの冷やし中華を食べた。6月なのに肌寒い街だった。

2日目(火曜)

課題管理表を探した。結論から言うと、4つあった。ベンダーのExcel、情シスのExcel、部長が個人で付けているメモ、そして誰も更新していないプロジェクト管理ツール。同じ課題が別の名前で3つの表に載っていて、ステータスが全部違う。

夜、マネージャーの高塚さんに電話で報告したら、「いいね、想定どおりの壊れ方」と言われた。この人は炎上案件を7つやってきて、声がいつも少し楽しそうで、それが頼もしくもあり、少し怖くもある。

3日目(水曜)

進捗定例を見学した。90分の会議で、決まったことはゼロ。正確には「継続検討」が6回発生した。誰も嘘をついていないのに、全員の話がつながらない。ベンダーは仕様の話をして、情シスは経緯の話をして、部長は納期の話をする。

会議のあと、情シスの若手の田島さん(僕と同い年だった)が給湯室で「もう何が正しいのか分からなくなってきました」と言った。僕は気の利いた返しができず、「ですよね」と言ってしまった。PMOが最初に共感してどうする、と夜になって後悔した。でも本音だった。

4日目(木曜)

高塚さんが現地に来た。午前中ずっと黙って資料を読み、午後イチで一言、「課題表、明日までに1つにするよ」と言った。

つまり今夜やるということだ。159件(実際に数え直したら212件だった)の課題を、4つの表から1つに寄せて、重複を潰して、責任者と期限を仮置きする。作業は23時を回り、僕は途中から「重複かどうか」の判断が怪しくなってきて、2件、別の課題を同じ課題として統合してしまった。これが翌週、小さな事故になるのだが、この夜の僕はまだ知らない。

25時、ホテルの大浴場はもう閉まっていた。部屋のユニットバスに浅く湯を張って、目を閉じたら一瞬で意識が飛んで、湯が冷めて目が覚めた。

5日目(金曜)

統合した課題表(212件→147件)を定例に出した。空気が変わったのが分かった。ベンダーのPMが初めて「この表なら使えます」と言った。

ただ、その直後に部長が「で、納期はいつになるの」と言って、会議室の温度がまた2度下がった。147件を潰す計画がないのに納期は出せない。高塚さんは「2週間ください。数字で答えます」と即答した。帰りの新幹線で、あれは根拠があって言ったのか聞いたら、「半分ある。半分はこれから作る」と言われた。

6日目(土曜)

寝た。14時間寝た。起きて、洗濯機を回しながら、なぜか田島さんの「何が正しいのか分からない」を思い出していた。

7日目(日曜)

夜、来週の段取りをノートに書いた。書きながら気づいたのは、この1週間、僕は誰の課題も1つも解決していないということだった。やったのはExcelの統合だけだ。それなのに現場の空気は確かに変わった。

それが誇らしいのか、虚しいのか、まだ決められないまま、月曜の始発の時間をアラームにセットした。遅延4ヶ月のPJの、これがまだ1週間目だ。

ことわり この体験記はフィクションです。実在の企業・案件・人物とは関係ありません。

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